クライシス・コミュニケーションのための10のポイント

 ここで紹介する10のポイントは、東京商工会議所広報委員会が幹事会やシンポジウムを通じて、 マスコミ・企業・法曹の各界で活躍されている専門家の話をまとめたものです。

10のポイント

1 経営トップの広報マインドがクライシス・コミュニケーションの成否を
 決める
2 企業に求められる広報と経営トップとの緊密な関係
3 広報機能の充実なくして企業の進歩はない
4 平常時に重要な危機管理
5 成長神話に潜むクライシスの影
6 クライシス・コミュニケーションに不可欠な法務の視点
7 クライシス発生時の対策本部は、権限の集中と一元的な情報管理が
 基本
8 マスコミ取材に「ウソ」や「隠し事」は禁物。「取材拒否」は企業に
 マイナス
9 記者会見はメディアの向こう側への説明
10 クライシスへの対応如何で企業の真価が問われる


Point 1 経営トップの広報マインドがクライシス・コミュニケーションの成否を決める

 クライシス・コミュニケーションは、対マスコミという関係にとどまらず、 ステークホルダー(利害関係者)をはじめ広く社会一般をも対象としたものである。 したがって、主管部署は広報であっても、その役割は単に1つのセクションのみに負わせるべきものではない。 経営者地震がトップマターであることを認識し、自らのリーダーシップの下、広報を中心とした全社的な体制の整備に努めることが不可欠である。

(→会社代表が経営層の場合のチェックポイント経営層によるRC事例

Point 2 企業に求められる広報と経営トップとの緊密な関係

 概して、経営トップには好ましい情報のみが伝えられがちなため、クライシスが発生した時に状況判断を誤るケースも見受けられる。 恒常的にマイナス情報も正確に伝えられる関係の構築を図る努力が経営者も広報担当者にも求められる。 加えて、クライシスの発生に備えて広報担当者が常に経営トップと直接連絡がとれる体制作りが不可欠である。


Point 3 広報機能の充実なくして企業の進歩はない

いわば広報は企業の「口」であると同時に「耳」でもある。ともすれば社内論理が優先されがちな中で、広報が社内野党として軸足を据えて、 社外的な見地から企業行為を捉えることが真の組織防衛のための役割として極めて重要である。 権限委譲を含めた広報機能の充実なくして企業の進歩もないと認識すべきである。

Point 4 平常時に重要な危機管理

 クライシスは突然発生するものであり、恒常的なマネジメントへの取組なくして適正な対応を図ることには限界がある。 自社において発生の可能性があるクライシスについて、関連部署が一体となったコミュニケーション活動を通じて、 未然防止の意識(火種を初期段階で収束する意識)や自社の理念、スタンスを共有することが重要である。


Point 5 成長神話に潜むクライシスの影

 成長を続ける企業の経営者ほど、ともすれば成長神話を維持したい呪縛に陥りやすい。 業績の低下を恐れることからクライシスは始まる。特に、オーナー経営者の企業への思い入れは判断を誤らせる大きな要因になる。

Point 6 クライシス・コミュニケーションに不可欠な法務の視点

 コンプライアンス(法令遵守)が企業活動の大前提として強く求められており、 企業行為に違法性がないかどうかが重要な社会的判断基準となっている。 罪に対する社会的概念は変化しつつあり、かつては大きな問題にならなかった行為であっても、 法的にも道義的にも厳しく企業責任を問われる時代になっていることを認識する必要がある。

 従って、クライシスの未然の防止や発生時の対外広報においてもリーガルリスクが対応上の重要な視点であり、 これが欠落することにより二次的なクライシスが発生するケースも散見される。 弁護士等の専門家の意見も取り入れるなど、法務の視点からクライシスを捉えることも、広報対応の上で不可欠である。


Point 7 クライシス発生時の対策本部は、権限の集中と一元的な情報管理が基本

 社会的な影響も大きいクライシスの発生時には、 緊急対策本部を設置 することも必要である。 対策本部の役割は、当該クライシスに関する情報を一元的に管理し、短時間で分析判断の上、対策を早急に実行することであり、 そのための体制を即時に整備することが求められる。


Point 8 マスコミ取材に「ウソ」や「隠し事」は禁物。「取材拒否」は企業にマイナス

 ウソや隠し事は、真実が明らかになった時のダメージが非常に大きい。内部告発を含めた情報流出は日常茶飯事の時代を迎えており、 情報の秘匿は不可能という前提で対処しなければならない。

情報はオープンにすることを前提とした上で、「分からないこと」「言えないこと」についてはその姿勢を明確にすることが必要。

また、取材拒否は取材者に疑念を抱かせるばかりでなく、憶測記事を招く可能性があり、企業にとっては却ってマイナス作用が生じる。 取材に対してはスピーディかつ真摯な対応を心がけた上で、自社の主張等を正確に説明し理解を得るために、 文書化したステートメントを用意することも有効な手段である。 特に重要な問題については、電話取材は極力避けて、直接面談することが必要である。
(→記者会見のチェックポイント聴衆がメディアの場合のチェックポイント

Point 9 記者会見はメディアの向こう側への説明

 記者会見は、その場にいる記者だけを対象にして行うものではない。 会見者の表情や態度、言動のすべてをメディアの向こう側にいる顧客や取引先はもちろんのこと、社会全体が注視していることを忘れてはならない。 場の雰囲気に左右されずに冷静かつ真摯に対応することが必要である。

クライシスの発生を想定したメディアトレーニング(模擬記者会見)も有効な事前対策である。
(→記者会見のチェックポイント聴衆がメディアの場合のチェックポイント)


Point 10 クライシスへの対応如何で企業の真価が問われる

 目先の利益を追うがあまり企業にとって好ましくない事実を表面化させない(隠蔽する)ことは、より大きなクライシスの火種になる。 事実は事実として受け止め、責任ある対策の実行に重きを置くことが、大局的に企業の信用や利益の確保につながる。 一時的なダメージは大きいとしても、それが結果的に企業の信頼回復に向けて大きな第一歩となる。
(→経営層によるRC事例RC事例:雪印食品信頼の重要性




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