リスク・コミュニケーションの歴史



 リスク・コミュニケーションという言葉は、アメリカで1970年代半ばに誕生し、徐々にその姿を時代とともに変えてきています。

 第1段階は、1975年ごろから84年までで、基本的にリスクデータの開示の時代、リスク比較の時代でした。 60年代後半から高まった市民運動によって、行政や企業の活動への反対が強まり、リスクデータを示すことが求められたためです。 ただし、この場合のリスクとは損失機会を被ることと考えられ、リスクと便益を比較することにより、 結局のところより大きな便益を受ける行為を正当化するために使われました。しかし、リスクが小さくても受け入れられない場合も多く、 リスク認知研究が進められることになりました。

 第2段階は、85年ごろから94年にかけての受け手ニーズと信頼の時代です。80年代に始まったリスク認知研究は、 人々のリスク評価がリスクの大小だけによらないことを明らかにしました。また、マーケティング分野での研究から、 受け手の特徴や状況に合わせることが効果的であることが明らかになり、受け手の求める情報を提供することと 信頼を得ることが重視されるようになりました。ただし、本質的な信頼の醸成よりも、 コミュニケーションのテクニックに走ってしまったきらいもあるようです。この時代には、 多くの実践的なコミュニケーション活動が行われましたが、あまり成功しませんでした。この不成功が、 National Research Councilによるリスク・コミュニケーション研究のきっかけとなりました。






 95年ごろから第3段階が始まっています。この段階のリスク・コミュニケーションは、 定義で示したように相互作用プロセスと考えられています。 ここでも当然、正確なリスクデータの提供や受け手にあわせた情報提供が重要ですが、 信頼を何らかのコミュニケーションテクニックによって獲得しようという意図は否定されています。 信頼はテクニックによって操作できるものではないことが第2段階の失敗を通じて明らかになったためです。 今日では、何らかの結果を目的としないリスクに関する意見交換過程をリスク・コミュニケーションと呼んでいます。

リスク・コミュニケーションの発展段階


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